今回は、阿部 暁子さんの最新作『カフネ』についてご紹介します。
本書は「第1回 あの本読みました 大賞」に輝き、いま大きな注目を集めている小説です。
さらにメディアでも特集が組まれ、話題になっています。
物語の概要
本作『カフネ』は、「食べること」を大きなテーマに据えた物語。
主人公である“野宮薫子”は、最愛の弟を突然亡くし、悲しみに沈んだ日々を送っています。
そんな中、弟の遺言書から浮かび上がった彼の“元恋人”である“小野寺 せつな”に会うことをきっかけに、薫子は家事代行サービス「カフネ」を営むせつなのもとで手伝いを始める。
- 野宮薫子(のみやかおるこ)
仕事にも真面目で生真面目な性格。悲しみを抱えながらも、喧嘩を避けてしまいがちな“飲み込み気質”の女性。 - 小寺 せつな(おのでら せつな)
バリバリのプロ料理人の腕前を持ち、自分のロジックを崩さないまっすぐな女性。言いたいことははっきりと言うタイプ。
彼女たちが依頼主の家庭で料理をしたり、少しずつ心を通わせたりするうちに、亡き弟が生前遺した色々な思いや秘密を知ることになる――というのが大まかなストーリーです。
“食べること”を通して描かれる再生と疑似家族
本来はワゴン車で各地を回って料理を提供するような物語を構想していたそうですが、コロナ禍で「生活の基盤」「家で食事をするという営み」にフォーカスが当たったとのこと。
小説のなかでは、料理の匂いや温度感、色合いの描写が大変印象的に描かれます。
登場人物たちが料理を食べるシーンは、読んでいるだけで“じんわり”と体が温まるような気持ちになるはず。
特に、「打ちのめされていても美味しいものを口にすると、体の奥深くで元気が湧いてくる」という描写がとても力強く、日常の中にある“食の威力”に改めて気づかされます。
魅力的な料理の描写とレシピ
作中に登場する料理は、
- 骨付き肉や激辛ペンネ・アラビアータといった個性的な一品
- 家にある材料を使った温かい料理
- すりおろしリンゴとハチミツ入りのルイボスティ……など
どれも「小説を読んでいるだけなのに、食べたくなる!」と感じさせる説得力があります。
実際に単行本にはレシピ小冊子が付いており、読者が自分で調理できる楽しみも広がります。
本書を読んでいてお腹がすく、という感想が多数寄せられているのも納得です。
個性的でかっこいい “せつな” の言葉
香る子と対照的に、せつなは正論をバシッとぶつけるタイプ。
ときには香る子の両親にさえ「プロの料理をタダで作れと言うなら時給をいただきます」と言い切ってしまう姿が印象的です。
また、貧困や社会問題に直面した子どもたちに対しても「栄養っていうのは、ちゃんと生きるために必要なもの。
おにぎりを作れるようになれば人生の“戦闘力”が上がるんだよ」と諭す場面があり、“実際に生きていくための力”を説くその言葉には説得力があります。
読んでいて思わず「かっこいいなあ」と感じられる、彼女の言動が物語にメリハリを与えているのも見どころです。
ジャンルやラベルを超えた“関係性”の物語
本書は料理が大きな役割を持つ一方で、「形のない関係性」も大きなテーマとなっています。
薫子とせつなが育んでいくのは、恋愛でも家族でもない、ある種ラベリングできない特別な絆。
「お互いの間にあるものは、一体何と呼べばいいんだろう……?」
そんな問いを抱えながら、それでも“おいしいごはん”を一緒に食べることで紡がれていく関係性こそが、この作品の根幹にある大きな魅力です。
読者としては、2人の距離感がどう変化していくのか、最後の最後まで見届けずにいられません。
感想
「食べること」の尊さをしみじみ実感
人間はどんなに落ち込んでいても、お腹がすくし、美味しいものを食べると元気が出てしまう。
その事実がちょっと悔しかったり、でもやっぱり嬉しかったり。
本書にはそんなリアルな心情が織り込まれていて、「ああ、私たちはこうして生きていくんだなあ」と胸に響きます。
以下は本の一部を引用したもの。
美味しいと感じることの力強さを感じられる文章です。
ぼうっとしたまま
マグカップを受け取り、
息を吹きかけてから、
そっとお茶を飲んだ。
リンゴの香りがふっと鼻の奥に
抜けていく。
蜂蜜のやさしい甘みが、
ささくれ立った神経をなだめてくれる。
すごい、と思った。
人間は、こんなに
打ちのめされている時でさえ、
おいしいと感じてしまうのだ。
そして、おいしいと感じた途端、
体中の細胞が息を吹き返していく。
主人公たちのコンビバランス
真面目で控えめな薫子に、ストレートに意見をぶつけるせつな。
人生観の違いからしばしぶつかり合いながらも、2人で一緒にごはんを作り、食べることで少しずつ気持ちが近づいていく過程には読んでいてホッとするものがあります。
ラストに感じる“優しさ”と“希望”
物語終盤では、薫子とせつなのみならず、亡き弟や周囲の人々の思いが徐々に繋がっていきます。
人と人との関係性が必ずしもはっきりした名前を持たないかもしれない。
でも言葉にならない“何か”がちゃんとある。
読後は不思議な優しさと、明日もちゃんとご飯を食べて生きていこう、という前向きな気持ちに包まれる、そんな本です。
まとめ
阿部 暁子さんの『カフネ』は、「料理×生きづらさ×名前のつけられない関係性」が三位一体となった心温まる物語です。
“食べること”に焦点を当てるからこそ浮かび上がってくる人間模様や、それによって癒されていく心の描写が非常に印象的。
おいしいものを食べて元気が湧く――それは日々を生き抜くための重要な手がかりであり、私たちが当たり前すぎて見過ごしがちな「生命力」の源かもしれません。
大切な人と料理を囲みたくなる、やさしい読後感の一冊。
気になった方は、ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。
★こんな方におすすめ★
- 料理や食べることに興味がある方
- 疑似家族や人間関係を丁寧に描く物語が読みたい方
- しんどいときにそっと背中を押してくれるような小説を探している方
阿部 暁子さんの描く“食”の世界と不思議な関係性の物語『カフネ』。
きっとページを閉じるころにはあなた自身も「明日、何を食べようかな」と前向きに考えたくなっているはずです。
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