
「やりたいことがあるのに、気づいたら全然手を付けられていない」「なんとなくスマホを眺めていたら、あっという間に時間が過ぎてしまった」
こんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。そうした“やるべきこと”を後回しにして、“どうでもいいこと”に時間を費やしているうちに、いつのまにか人生の大切な時間を浪費してしまう――。
本書『あっという間に人は死ぬ から 時間を食べ尽くすモンスターの正体と倒し方』(著:佐藤舞衣)では、私たちの時間を奪う「モンスター」の正体を明かし、その克服法を示してくれます。
著者はデータサイエンティストであり、登録者38万人超えのYouTuber「サトマイ」としても活躍中。
時間管理や集中術の本は世の中に数多くありますが、ここまで私たちの「行動の裏にある心理」や「人生観」までも掘り下げて解説した一冊はなかなかお目にかかれないのではないでしょうか。
本書を通じて学べるのは、時間を有効に使うテクニックだけではありません。むしろ本質は、「死」「孤独」「責任」という誰しもが直視したくないテーマをあえて見つめることで、「大切なことにフォーカスしながら人生を生きる」ためのヒントを得ることです。
この記事では、本書のエッセンスとともに、私自身が感じた学びや気づきを丁寧にご紹介していきます。
“代替行動”に気を取られると人生があっという間に終わる
まず本書を読んで印象的だったのが、私たちは“やるべきこと”をやらずに、「代替行動」に逃げてしまっているという指摘です。
- 勉強しようと思ったのに部屋の掃除を始めてしまう
- 仕事に集中したいのに、いつの間にかSNSをスクロールしてしまう
- 「明日こそやるぞ!」と意気込んだのに、友人の誘いに流されてしまう
こういった行動パターンは一度や二度ではなく、誰しもが“50万回くらい”は経験しているのではないでしょうか。結局、肝心のタスクに手を付けないまま時間が過ぎてしまうと、「なんでまた自分はこんなことをしてしまったんだろう」と後悔してしまいます。
著者は、こうした“逃避行動”が積み重なると、気づいたときには大事なことを何も達成しないまま人生の終盤を迎える恐れがある、と警鐘を鳴らしています。
いわばこれは「人生の終焉をベッドの上で迎えたとき、何もやれなかった悔しさと向き合うはめになる」という最悪のシナリオ。想像すると本当に怖いですよね。
ではなぜ、私たちはここまで「代替行動」に時間を食われてしまうのでしょうか。普通に考えれば、やりたいことややるべきことがあれば、素直にそれに取り組めばいいだけのはず。
しかし、本書ではこの原因を「人生の3つの断り」、すなわち「死」「孤独」「責任」からの逃避と結びつけて解説しています。
時間泥棒の正体は「死・孤独・責任」からの逃避
本書で示されるのは、人生において避けられない3つの要素――
- 死
- 孤独
- 責任
これらをまとめて「人生の3つの断り」と呼び、誰しもが抱える根源的な不安の正体だと著者は指摘します。では、どうしてこれらが人の時間を奪うモンスターにつながるのか。それは「見たくないものから目をそらす」ために、別の行動を無意識に正当化し、時間を浪費してしまうからです。
1. 死
人は必ず死にます。これは全人類に共通している絶対的な真実です。しかし、多くの場合「死」は遠い未来のことだと捉えてしまいます。ましてや明日死ぬかもしれない、なんて現実を直視するのはとてもしんどい。だからこそ、多くの人は“死なないこと前提”に生きています。
「自分の寿命はまだまだ先だから、今は好きなことをしていても大丈夫」
と、どこかで思っていませんか? 本当にやりたいことや挑戦したいことを先送りしてしまいがちな理由のひとつが、この“死から目をそらす”行為にあるのです。
2. 孤独
人間は社会的な生き物でありながら、根本的には「孤独」な存在です。周囲に人がどれだけいようとも、自分の内面を100%理解してもらうことはできません。結局のところ、私たちは「1人で生まれ、1人で死んでいく」のです。
孤独はどうしても不安を伴います。だからこそ、SNSでの“いいね”や友人やパートナーとのつながりを求めて、その“孤独感”を紛らわせようとします。ここに行きすぎた執着が生まれると、通知をひたすらチェックして時間を浪費する、常に誰かと一緒にいることでないと安心できないといった状況に陥ります。
3. 責任
人生は選択の連続です。仕事や人間関係、住む場所、生き方……挙げればキリがないほど、私たちはさまざまな選択肢を前にしながら生きています。そして、自分で決めたからには、その結果に対する「責任」が生じます。人はこの責任感が過度に大きくなると、怖れから選択を先送りしたり、あるいは人に決めてもらおうとしたりするのです。
「自分がこう決めた」という思いが強いほど、失敗したときのダメージも大きいです。だからこそ「ちゃんと準備しないと失敗する」「まだ充分な知識がないから」といって情報収集に走り続け、本当は行動しなければならないのにいつまでも踏み出せない――。これも立派な“代替行動”といえるでしょう。
“逃げたい衝動”はなぜ起こるのか――自己欺瞞(ぎまん)というメカニズム
本書の中で重要なキーワードの1つが「自己欺瞞(自己欺まん)」です。これは、自分が行動しないことを正当化するために、自分自身に嘘をつくこと。“勉強したいからまずは部屋を片付けよう”“いや今は人付き合いを増やした方が将来のためになる”“起業セミナーに通わないと不安だから、今は起業準備はできない”……。
これらは一見、合理的に思えますし、まるで善行のように感じるかもしれません。しかし実のところ、真の目的(=本当にやるべきこと)から逃げてしまっているケースも少なくないのです。著者はこうした行動を
「自分がやりたくない本命の行動から逃げるための言い訳づくり」
と断言します。厳しい言い方ではありますが、その分だけ納得度も高い。
多くの場合、私たちの心の中には「やるべきことはわかっているけど、失敗や責任を負うのは怖い」「嫌な気持ちになるのは避けたい」という感情が渦巻いています。その不安な気持ちを取り除くため、別の行動をして自分をごまかし続ける。これこそが時間の浪費につながっていくのです。
本当に人生を浪費しているのは誰?――3つの断りを直視することの意義
ここまで読むと、「死」や「孤独」、「責任」のようなネガティブ要素から逃げるというのは、ある意味本能的な動きとも言えます。人間にとって不安や恐怖から目をそらすことは自然な自己防衛行動でもあるからです。しかし、本書が主張するのは次の点です。
「死・孤独・責任」から目をそらさず、“直視”することが、時間を食べ尽くすモンスターを倒す第一歩である。
たとえば、自分の死について真剣に考えるとき、「あとどれくらい生きられるか」「自分の人生は何のためにあるのか」という本質的なテーマに向き合わざるを得なくなります。そこに目をそらさずにいると、「今自分が本当にやりたいことは何なのか」「どのように生きれば悔いがないのか」が明確になってくる。
さらに、「孤独」を認めることは、逆説的に「じゃあ1人の時間をどう活かすか」「自分にしかわからない内なる世界をどう楽しむか」を考えるきっかけになります。「責任」を負うことを恐れなくなると、「自分で決めて自分の人生を切り開く」という本来の自由を謳歌できるようにもなるのです。
これら3つの断りをあえて直視することで、「本来の人生の目的」を再認識し、それを妨げる代替行動を減らすことにつながる。これこそが本書で最も重要なメッセージと言えるでしょう。
人生に「苦」は必要である――努力のパラドクスとホルミシス効果
本書の後半で印象的だったのが、「私たちは苦痛から逃れようとすればするほど幸せは遠ざかる」という指摘です。現代の社会では「いかに楽して成果を出すか」「効率的に行動するか」という観点が重視されがちですが、著者はそこに注意を喚起します。
1. 努力のパラドクス
心理学には「努力のパラドクス」という概念があります。これは、「自分がどれだけその行為にコスト(時間・労力・お金)を投下したか」によって、結果として得られる“満足度”や“幸福感”が高まる、というものです。
たとえば、山登りやマラソン、DIY、さらには受験勉強などもそうでしょう。一見、辛くて面倒に思えるけれども、頑張って取り組んでやり遂げたときの達成感は非常に大きく、それが自己成長にもつながります。逆に、なんの苦労もなく結果だけ得ても、本当の意味での喜びや幸せは味わえない。
2. ホルミシス効果
生物学的にも、適度なストレスが成長や健康を促進する「ホルミシス効果」という現象が知られています。
- 運動による負荷は一時的に筋繊維を傷つけるが、長期的には筋肉を強くする
- 植物も常に適度な風や日差し、低い温度などの刺激がないと弱くなる
1991年にアメリカで行われた実験では、温室で大切に育てられた木々は急速に成長したものの、すぐに枯れてしまったといいます。これは、自然界の風や雨などの“ストレス”が不足していたから。要するに、「苦労はゼロがいい」というわけではなく、むしろ人生には適度な“苦”が必要だというわけです。
この視点から見れば、「死・孤独・責任」というネガティブな要素も単なる困難ではありません。むしろそこに向き合うことで、生き方を見直し、行動の優先順位を変え、本当にやりたいことに労力をかける――その結果として人生を豊かにできるのです。
死ぬ瞬間に後悔しないために――5つの後悔が教えてくれること
死の間際、私たちがどんな後悔を抱くか。著者が紹介しているのは、緩和ケアの看護師であるブロニー・ウェア氏の著書『死ぬ瞬間の5つの後悔』から引用された、死を目前にした患者がよく口にする“5つの後悔”です。
- 自分に正直な人生を生きればよかった
- 働きすぎなければよかった
- 思い切って自分の気持ちを伝えればよかった
- 友人と連絡を取り続ければよかった
- 幸せを諦めなければよかった
驚くべきことに、そこに「もっと稼いでおけばよかった」という後悔は含まれていません。むしろ、周囲の目や社会的要請に流され、自分に嘘をついたまま生きてきたことを悔いているケースが多いのです。
これはつまり、死を意識したからこそ、“自分の人生を正直に生きる”ことがいかに大切かに気づくということ。本書が伝えている「人生の3つの断り(死・孤独・責任)」を真正面から見る姿勢は、自分に嘘をつくことをやめるきっかけにもなるのでしょう。
どうでもいいことに時間を奪われないための具体策
では、実際に「死・孤独・責任」を直視し、自分を欺かずにやるべきことに集中するためには、どのような行動をとればいいのでしょうか。本書には具体的なワークがいくつも紹介されていますが、ここでは要点となるアプローチをいくつかピックアップしてみます。
自分の価値観を見つめ直す
まずは、自分が本当に大切にしたい価値観を言語化してみること。紙とペンを用意し、「自分があと1年しか生きられないとしたら、何をやりたいか」「死ぬときに後悔しないために、何を優先したいか」をリストアップしてみるのです。
>ジャーナルとは?夢や目標を達成するための実践法【成功へのガイド】
これを繰り返すことで、漠然とした「やりたいことリスト」から、本当に「やるべきこと」が浮き彫りになるはずです。死というテーマは重いかもしれませんが、著者も言う通り、「直視できないからこそ一度きちんと向き合う」ことに意味があります。
自分の「逃げパターン」を知る
私たちは、死や孤独、責任から逃れるためにどんな行動をとりがちでしょうか。
SNSを見続ける、ゲームをする、勉強以外の雑務を優先する……。これらの“逃げ”パターンを客観的に把握するだけでも、「あ、またやってるな」と気づけるようになります。
最初はスマホの通知を切る、作業環境から余計なものを排除するなど、物理的に逃げ道を封鎖するのも有効です。ただし、根本的には「なぜ逃げたいのか」を突き止める必要がある。そこで鍵になるのが、前述の自己欺瞞の自覚です。
小さな一歩を踏み出す
正直な生き方といっても、いきなり大転換をするのは難しいもの。そこでおすすめなのは、小さな変化から始めること。例えば「年に数回、苦手だと思っていたことに挑戦してみる」「月に1回、どうしても会いたかった人に連絡を取ってみる」など、自分が“本当に望んでいるけれど先送りにしていた”行動に少しずつ取り組んでみましょう。
「自分でやると決めた」選択を一つでも実行してみると、その成功体験が糧になり、自己欺瞞を減らしてくれます。逆に失敗したとしても、「それは自分で選んだ行動だ」と納得できれば、次のステップへとつなげやすくなります。
>【書評・要約】パーフェクトな意思決定 (著者:安藤広大)「決める瞬間」の思考法
まとめ――今、あなたは「死と太陽」をどう見つめるか
本書の中で引用されている言葉に、17世紀フランスの文学者ラ・ロシュフコーの名言があります。
「死と太陽は直視できない」
どんなに明るい太陽であっても、真正面から見つめるとまぶしすぎて目を開けていられません。死や病、孤独、責任といった人生の暗部も同様で、直視するのはとてもつらい。しかし、太陽の光が私たちにとって必要不可欠であるように、死や孤独、責任もまた、私たちが「大切なものを見極める光」となるのです。
時間管理術や生産性向上のためのノウハウ本はたくさんありますが、それらのテクニックだけでは根本的に人生を変えるのは難しいと感じることはないでしょうか。なぜなら、私たちの行動が「本能的な恐怖」や「不安」と密接に結びついているから。
本書の大きな特徴は、そこを見事に言語化し、真っ向から向き合うための具体的なワークを提示している点にあります。
最後に
- 死を意識するからこそ、今を大事にできる。
- 孤独を認めるからこそ、自分の内面の声に耳を傾けられる。
- 責任を引き受けるからこそ、自分の人生を自由に選択できる。
そして何より、“どうでもいいこと”に流されてしまう時間こそが、人生を奪うモンスターの正体だということ。その背後にある自分の心理を理解し、あえて直視する勇気が、豊かな人生の突破口となるでしょう。
「代替行動」で人生の大半を無駄にしてしまわないように。この本を読めば、あなたが本当はどこへ向かうべきか、何に時間を使うべきか、その道筋がはっきりと見えてきます。ぜひ手にとって、自分の人生を振り返るきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
オススメポイントまとめ
- 死・孤独・責任という避けられないテーマに正面から向き合う大切さ
- 自己欺瞞を解き明かし、**“代替行動”**から抜け出す具体的なワーク
- 「努力のパラドクス」や「ホルミシス効果」など、学術的な裏付けをもとにした解説
- 死の間際に多くの人が持つ5つの後悔から学ぶ“本当の幸せ”への道
さいごに
本書は決して暗いテーマを押し付けるものではなく、むしろ“今をより充実させる方法”を教えてくれる本でもあります。死を直視することで生きることの価値が高まる。孤独を受け入れることで人間関係の意味が深まる。責任を負うことで自分の人生に誇りをもてる。こうしたポジティブな循環を作り出すために、本書ほど実践的なヒントを与えてくれる作品はそう多くありません。
もし「仕事もプライベートもどこか空回りしている」「時間が足りなくてやりたいことができない」「どこか漠然とした不安を抱えている」という方がいたら、本書を読むことで“時間”だけでなく、“人生の主導権”を取り戻すきっかけになるはずです。
あなたの人生が終わりを迎えるその時、いかにして「我が人生に一片の悔いなし!」と言えるか。本書が指し示す道筋は、そのゴールへ向けて今からでも一歩ずつ進むことができる、私たちの最良のコンパスとなるでしょう。
ぜひ、あなたの手でページを開き、“時間を食い尽くすモンスター”の正体を暴いてみてください。

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